「だって、かわいそう! 優は薫のこと、すごく大事にしてる。そばで見てたら、わかるくらい。それなのに、他に好きな人ができたからって捨てるわけ? それって、ひどくない?」


「わかってる。わかってるけど、どうしようもないじゃない? 気持ちに応えられないんだし」


「じゃ、こうしよう。今から店長に聞いてくる。遠藤さんの友達の店長に聞けば、彼女がいるかくらいわかるよ。もし彼女がいたら遠藤さんのことは忘れること! わかった?」


「何言ってるの? 勝手過ぎるよ。あれだけカッコイイならいるって。普通の人でも彼女の一人や二人いるのに……」


「いないよ。今、あいつ彼女いない」


「うわっ!!」


私と花音が一斉に声を上げる。


私の真横に店長が立っていた。


店長はトイレのドアの前にいるところを見ると、ちょうど中から出てきたようだった。


さっぱりした、曇りのない表情の店長は私にこんな言葉をかけた。


「なんだ、薫ちゃん。遠藤のことが好きなのか。ちょうど、あいつ今フリーでね。彼女募集中だよ。よかったね」


「えー。本当ですか?」


「本当。本当。別れたばかりだから、今がチャンスだよ」


店長は何度も首を縦に振る。


それから、腕組みすると遠くをじっと見据えて何やら懐かしんでいる様子だ。


ほどなくして店長は口を開いた。


「あいつは高校時代、モテまくってた。彼女のいない時期なんてなかったんじゃないかってくらいね。そんなあいつが、今はフリー。もう、あいつの時代も終わったってことだ」


それを聞いた花音は納得がいかないのか、不満げな顔色を浮かべて文句を言った。


「遠藤さんって優しそうな顔してるけど裏がありそう。モテなくなったって性格悪いからじゃない?」


店長は目をパチクリさせ、腕組みしたまま黙り込んでしまった。