「口止め料」


葵が小さな声で言った。


「加瑠羅の封筒だよ。これ、あげるから家族には内緒にしててね」


心の中で『バッカじゃない?』と思った。


突き返してやろうとポケットの中の封筒を摑んだ。


でも、加瑠羅の『別れる時、手切れ金をたっぷりぶんどってやりな』という言葉を思い出した。


そのまま、受け取ることにした。


玄関扉を開けて、閉めることなく進んだ。


扉の方は見ない。


マンションの廊下を歩く。


「葵は遊び人で嘘つきで腹黒い。葵は遊び人で嘘つきで腹黒い」


歩きながら呟いた。


自分に言い聞かせるように何度も何度も帰宅するまで繰り返し呟いた。


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茶色の硬い床に大の字になって寝転んでいた。


ティッシュの山がそこら辺にできていた。


新年早々、私は絶望感に浸っていた。


泣いてもどうにもならない。