そう呟くと心底悔しそうに唇を噛みしめた。


「なんで家を出ていったの? なんでなの?」


私の追及には答えず、葵は背を向けた。


そうして、不気味なことに笑い出した。


何が可笑しいんだろう?


葵がわからない。


「なんで笑うの?」


「ははははははは。今、思えば茶番だなあって自分で自分が可笑しくてね。」


「本当のこと話してよ。全部、話して」


「夏風邪を引いたのは彩夏。あーやーか。彩夏だよ。娘が心配で帰ったんだ」


「じゃあ、今まで実家に帰ってたのは、なんで? 約一ヶ月も家を空けたのはなぜ?」


「薫と別れようか迷って悩んでたんだ。性格が合わないかもって思ったから。でも、距離を取ってみて考えが変わった。やっぱり薫が必要だよ。これからも支えてほしい」


葵の開き直りに呆れた。


不倫をまだ続けようとしている。


この男、最低だ。


「このマンションは加瑠羅と会うための密会用マンションだったんだ。会社の近くにあると通勤にも便利だし一石二鳥だと思った。妻は何も知らないよ。純粋なんだ。疑うことを知らない」


そこまで葵が喋ると、パシッと葵の頬を反射的に打った。


葵が手で頬を押さえる。


「嘘つき! 嘘つき!」


葵を責める。


両方の拳で葵の胸を叩く。