異変を感じた葵が私を見つめる。


私は何も答えることができない。


黙りこくった。


「ご機嫌斜めにもなるよね。ごめん。今まで寂しい思いをさせて。でも、これからは一緒だから。また、ここで暮らそう」


葵の声の調子は憎らしいほど明るい。


「おふくろの体の具合、良くなったんだ」


平気で嘘をつく。


もう、嘘はうんざりだ。


バカにしないでほしい。


「お母さんは亡くなったって聞いたよ。全部嘘でしょ?」


私の言葉に葵は色を失った。


抱き締めていた手を離して二、三歩下がる。


「おふくろが夏風邪を引いたって言ってたよね? 本当はなんで家を出ていったの?」


今度は葵の方が黙りこくった。


部屋の中は静かだ。


「夏子さんと彩夏ちゃんに会うため?」


その二人の名を口にした瞬間、葵が激しい勢いで私の両肩を摑んだ。


「どうしてそのことを!?」


「加瑠羅さんに聞いた」


「あの女!」