ガラスサッシの外は銀世界だった。


リビングのガラスサッシに寄りかかって下界を見下ろす。


白くなった建物をもっと見たくなって、ガラスサッシを開けてベランダに出た。


新鮮な朝の空気を吸った。


ひんやりして気持ちいい。


寒さを感じてすぐ室内に戻った。


戻ると、リビングのドアが開いた。


ドアを開けた男と視線が絡まる。


男は屈託のない顔で笑う。


「ただいま」


大きなスーツケースを持って、その男、葵は帰ってきた。


そして、銀色のスーツケース、赤いマフラー、黒いコートをその場に置いた。


「会いたかったよ」


ガラスサッシの前まで近づいてくると、私の腕を摑んで抱き寄せる。


「あったかい。薫は温かいなあ」


葵の息が耳にかかる。


私は抱き締められたまま、抱き締め返すことなく動かなかった。


葵は何も知らない。


私がすべてを知ってしまったことを知らないんだ。


「どうしたの?」