すると、加瑠羅が低い声で一言だけ言った。


「あんただよ」


そして、続けざまに話す。


「捨てられる前に捨てるんだ。ふられる前にふってやりな。そうしたら、私もあいつが女にふられて落ち込んでるのを見ると胸がスカッとして気持ちいいってもんだよ。あと、しっかりあいつから手切れ金をせしめるんだよ。ガッポリもらいな」


「ふるんですか?」


「そうだよ。あんた、わかっただろ? 葵は悪い奴なんだ。私らのことなんか遊び道具としか思っていない。所詮は、おもちゃなんだ」


前に、加瑠羅に言われたことを思い出す。


『おもちゃは飽きたらポイ捨てされる』という言葉だ。


本当にポイ捨てされてしまうんだろうか?


「最初から、わかってたよ。そういう奴だってね」


加瑠羅はそう言うと遠くを見据えた。


そして、切ない表情をして続ける。


「あんたも残念だけど必ず私みたいになるんだ。このまま、不倫を続けても結婚なんかありえない。捨てられるのがオチだ。あんたが望んでるだろう結婚生活はやってこないんだよ」


葵とは結婚できない。


私が夢に描いていた幸せな葵との結婚生活は永久にやってこないんだ。


涙が目に溜まる。


こぼれ落ちないよう上を向く。


「私は葵が白馬に乗った王子様で自分を将来幸せにしてくれる男だと思ってなかった。刹那主義だから未来なんか考えてなかった。結婚はどうでもよかった。恋愛=結婚って結びつけたりする子供じゃないからね。あんたは恋愛=結婚派だろ? まだまだ子供だね」


加瑠羅は私の内心を見透かしていた。


加瑠羅には私が男にだまされ弄ばれた哀れな子供に映るんだろう。