彼女はセクシー過ぎる。


「ははっ。勝ち目ないってわかっただろ?」


加瑠羅が脂で黄ばんだ歯を見せて笑う。


私が大きく頷く。


まだ寝が足りないのか、欠伸を噛み殺しながら加瑠羅は語り始めた。


「私はね、既婚者だって知ってて付き合ってたんだ。不倫であることは知っていた。あんな美人が奥さんだとは知らなかったけどね。でも、あんたは被害者だね。知らされてなかったんだから」


「そうですね」


「詐欺だね。あいつは詐欺師だ。別れる時、手切れ金をたっぷりぶんどってやりな」


「手切れ金ですか?」


「そうだよ。脅してやるんだよ。嫁にばらすぞってね」


「夏子さんに?」


尋ねると冷酷な表情に変わった。


「あくまで脅すだけ。本当に言うんじゃないよ」


その口ぶりは冷淡だった。


なぜ夏子さんに内緒にするんだろう?


「不倫の事実を隠すのはどうしてですか? 夏子さんに話してもいいと思うんですけど」


「世の中には知らない方が幸せなことってあるんだ。これから、ずっと私は誰にも口外しないよ。夏子さんは知らない方がいいんだ。その方が、うまくいくんだよ」


「そうでしょうか? 何も知らない夏子さんが私みたいにだまされてて本当にこのままでいいんでしょうか?」


「いいんだ。このままでいいんだ。嘘のうまい男にだまされてる方が女は幸せなんだ。現実は知らない方がいい。私は幸福な家庭をメチャクチャにして壊そうとするほど質の悪い女じゃないよ」


「でも、葵のしてることは許されることではないでしょう? 誰が葵に罰を与えるんですか?」