肩を抱かれる。


二人で階段を降りた。


加瑠羅が後ろを振り返ったので私も振り返る。


玄関扉の前で夏子さんは満面に笑みを湛えながら手を振っていた。


加瑠羅は手を振り返すことなく、ただ穏やかな微笑を顔に浮かべていた。


▼ ▼ ▼ ▼ ▼


煙草の煙が立ち昇っているのを目にすると意識が戻った。


どうやら私はソファに座って茫然としていたようだ。


缶ビールが乱雑に並べられたガラステーブルのすぐそばには立て膝で座る加瑠羅の姿があった。


リビングに煙草の臭いが立ち込める。


二人揃って帰ってきて葵のマンションで私たちは一体何をしているんだろう?


ふいに、煙草を吹かす加瑠羅と目が合う。


「結婚してたなんて……」


思わず、口から漏れる。


「相手の女、上玉だっただろ?」


そう言うと、加瑠羅は煙草の吸殻を飲み残したビールの缶の中に捨てた。


そして、例の流し目を向ける。


「はい」


弱々しく返事をする。


何の因果か夏子さんは赤いルージュがすごく似合う大人の女性だった。


いくら私が背伸びしても夏子さんのような本当の大人の女性には敵わない。