天使のように、にっこり笑って夏子さんは答える。


「先生、すごいわ。不思議なパワーを持ってるんですね。尊敬しちゃう」


「それほどでもないよ」


「いいえ。すごいわ。でも、この赤いルージュがどうして前庭に落ちてたのかわかりません」


「彩夏ちゃんだろ?」


「彩夏? あの子が勝手に持ち出したということですか?」


「そうだよ。子供のすることだからね。許してあげなよ」


「まだ子供なのに口紅を持ち出すなんて、ませたことするわね。彩夏には困ったものだわ」


加瑠羅は自分の罪を彩夏ちゃんになすりつけた。


悪い女だ。


でも、どこか憎めない魅力がある。


「さてと」


加瑠羅は立ち上がった。


ソファに置いていたロングコートを手に取る。


「そろそろお暇するよ」


夏子さんに別れを告げる。


「薫、帰るよ」


加瑠羅に声をかけられ、私も立ち上がってコートを取る。


「あら、もうお帰りですか?」


夏子さんは寂しそうな表情をした。