私が真横の加瑠羅を怪しい目で見た。


加瑠羅は玄関ホールに通じるアール扉をじっと見つめていた。


きっと、夏子さんが戻ってくるのを待っているんだろう。


「実は、さっき家に入る前に口紅をパームツリーに向かって投げたんだ」


アール扉を凝視しながら、私に本当のことを教えてくれた。


「なんで投げたんですか?」


「じゃあ、聞くけど、なんであんたは口紅を葵に渡さず持ってたんだ? しかもその上、自分のもんのように使ってたんだろ?」


「それは……渡しそびれて……」


「それと同じだよ。人間ってのは時々、自分でもわけわかんないことして自分が何やってるのかわからなくなる時があるんだよ。そこが機械と違って人間らしいとこなのかもね」


そんな話をしていると、夏子さんがリビングに戻ってきた。


夏子さんの手には私が長い間所持していた口紅があった。


「ありましたよ。これですね?」


加瑠羅に笑顔で夏子さんは口紅を見せた。


「そうだよ。それ、あんたのかい? あんたのルージュで間違いないかい?」


加瑠羅はいつになく真面目に問いかける。


加瑠羅は確かめている。


本当は真相を確かめたかったんだ。


もし、ルージュが夏子さんのものでなければ葵に四人目の女がいることになる。


私でも加瑠羅でもなければ他の誰かが落としたことになるからだ。


「これは私のルージュです」