「わかりません。そんな覚えないんですけど」


心当たりがないようだ。


ソファに座って脚組みした加瑠羅が顔をしかめる。


両手は組んで膝に置いていた。


「おかしい。そんなはずはない。化粧品を落としてるはず」


「化粧品?」


「そっ。化粧品」


何度も夏子さんは首を左や右と交互に傾けて悩んでいる。


「口紅だよ」


しびれを切らして加瑠羅が夏子さんに告げ知らせる。


「何本も持ってますから一本くらい落としていても気付きませんよ」


夏子さんは口紅をなくした覚えがないようだ。


「そうか。そうだね。でも、絶対落としてるよ」


「証拠はあるんですか?」


「あるよ」


加瑠羅は余裕で言った。


まったく怖じけることがない。


「パームツリーの近くを探してごらんよ」


「え? パームツリー?」


「近くに落ちてるよ」


加瑠羅の言葉に従ってソファから立ち上がった夏子さんはリビングを出ていった。