別段、興味ないといった感じで加瑠羅は夏子さんの話を聞き流しているようだ。


おそらく、今年も去年もお正月は加瑠羅さんとあのマンションで過ごしたんだろう。


「どういう風の吹き回しか、この頃よく帰って来るようになったんです。いつも会社に泊まり込みで働いていた人がですよ?」


「ふっ。会社に泊まり込みね。遠藤君、ご熱心だね」


夏子さんの話に加瑠羅は内情を知っているので、薄ら笑いを浮かべながら皮肉なことを口にした。


「帰って来るようになったから期待して大喜びで張り切って初詣に行く計画を立てていたのに、がっかりですよ。とんだぬか喜びです」
 

「まあね、それは仕方ないよ。編集者は忙しいから正月も休めないんじゃないかい?」


「だと思います。ああ、薫ちゃんが羨ましい」


心臓がドキンと鳴った。


愛人であるのがバレたのかもしれない。


すべて夏子さんは見透かしているんじゃないだろうか?


お正月を過ごす相手がこの私だと見破ったんじゃないだろうか?


そんな不安がよぎる。


「私も高校時代に戻りたいなあ。そうすれば、人生をやり直せるのに」


夏子さんは声を弾ませていた。


バレたわけではないので胸を撫で下ろす。


「やり直さなくても十分、幸せだろ?」


そう加瑠羅に問われて夏子さんの瞳が翳る。


「ええ。でも、もっと幸せだったかもしれない。葵じゃない人を選んで結婚してたら寂しい思いをせずにすんだかもしれないし」


「贅沢なんじゃないかい? 世の中には私みたいな不幸な女がいるんだよ? この年で独身でホスト遊びに狂って金もない。私から見たら夏子さんはセレブ妻で成功者だよ」