私、バカだ。


鼻がツンと痛くなって涙が込み上げてきた。


でも、泣くと変に思われるので我慢するため膝に置いた拳をぎゅっと強く握り締める。


「あらあら、どうしたの?」


夏子さんが心配して優しい口調で聞いてくる。


「薫は極度の上がり症なんだ」


加瑠羅が取り繕う。


「薫、しっかりするんだ。人馴れしないとダメだよ。耐えるんだ」


私に向かってそう言うと加瑠羅がポンポンと優しく頭を撫でてくれた。


『耐えるんだ』は胸に響いた。


「大丈夫? どうしたら落ち着く?」


「大丈夫だよ、夏子さん。それより今日、遠藤君は?」


「もう仕事に出かけました」


「そうか。一足遅かったか。もっと早く来てたら死ぬほど面白かったのにね」


ニヤリと加瑠羅は何かを想像しているのか笑った。


「そうだわ。聞いてくださいよ。葵ったら大晦日からずっと家を留守にするって言うんですよ。来年のお正月も仕事漬けのようなんです。今年も去年も一緒に過ごせなかったのに、あんまりじゃありません?」


夏子さんが不平を言い立てる。


お正月は私と過ごすことになっている。


悪いけれど、葵はその時期だけ私の彼氏になるんだ。


「ふーん。なるほどね」