私にはわかった。


ルージュを落としたのは彼女だったんだ。


注ぎ終えるとティーカップを私の目の前に置いた。


香り高いダージリンが私の鼻腔をくすぐる。


「そちらの可愛らしいお嬢さんは?」


彼女はゆったりと私の向かいのソファに腰掛けながら加瑠羅に尋ねた。


「姪っ子だよ」


私の隣にいる加瑠羅は悪びれず堂々と嘘をついた。


「まあ、そうでしたか。女子大生?」


長いまつ毛に縁取られた瞳はパッチリと大きく光り輝いていた。


その美しい瞳を私に向けて問う。


「いいえ。まだ高校生です」


美貌に気圧されて私は怯みながら答えた。


「そう。私、先生の担当編集者の妻で遠藤夏子と申します」


礼儀正しい彼女は凛とした物腰で自己紹介した。


「松永……薫……です……」


嫌な予感が的中したショックで口ごもる。


やっぱり奥さんだったんだ。


葵は結婚していたんだ。


なんで気付かなかったんだろう?


しかも、よりによって名前に夏女の『夏』がついているのは因縁めいた何かを感じる。