黒いコートを身に纏った加瑠羅の後ろをついて歩いていた。


駅からどれくらい歩いただろう?


いつのまにか住宅街に足を踏み入れていた。


「たまには、こうして冬の寒い日に女二人が連れ立って散歩するのも悪くないだろ? お天気がいいことだし」


口から白い息を吐きながら、私を振り返る。


でも、外は散歩が苦痛に感じるほど凍てつく寒さだった。


「タクシーで来たかったです。寒いじゃないですか」


「ふっ。金がないんだよ、金が」


加瑠羅は妖しげな笑みを浮かべると、また前を向いて歩き始めた。


閑静な高級住宅街の中でも一際、目を引く豪邸があった。


加瑠羅がその家を指す。


「あの家だよ。あれが葵の家」


それは、白い外壁の洋風の家だった。


近づいてみると、正面から見て右にパームツリーが塀からまっすぐ突き出ていた。


そして、左にビルト・イン・ガレージがあった。


右のパームツリーの奥にガラス張りのコンサバトリーが見えた。


庶民の家ではとても見ることができないコンサバトリーに目を留めていると加瑠羅がこの豪邸を前に物ともせず、チャイムを鳴らした。


インターフォン越しに声が聞こえる。


「まあ! 先生、お久しぶりです」


向こうはカメラでこちらの様子が見えるんだろう。