魅惑の流し目で加瑠羅が私を見た。


加瑠羅は昔、ハリウッド映画に出演していた流し目の得意な女優に似ていた。


名前は忘れてしまったけれど、あの女優も今の加瑠羅のように煙草を咥えていた。


その時も彼女を見て思ったんだけれど、大人の女を感じる。


「悪いことは言わない。あいつとは別れた方がいい。お嬢ちゃんはまだ大人の汚れた世界を知らない。子供なんだ」


加瑠羅は指に煙草を挟んでどこか遠くを見つめながら言った。


「子供じゃありません」


「子供だよ。白馬に乗った王子様がいると信じてるだろ? 葵は王子様じゃないよ」


「わかってます」


自分が飲んで空けた缶に煙草の灰を落として加瑠羅はその煙草を置いた。


煙草の吸い口には口紅の跡が残っていた。


それは、真っ赤なルージュだった。


それを見て思い出す。


あのルージュを返さなければならない。


私は寝室にあった化粧ポーチを持ってきて化粧ポーチの中の口紅を取り出した。


それを立ったまま、座っている加瑠羅に見せる。


私の手の平に載せた口紅を加瑠羅は確認すると、私の顔を見上げる。


「これ、あなたのでしょ? ずっと無断で使ってました。勝手に使用してごめんなさい」


謝っても加瑠羅は応答しない。


怒っているのだろうかと気を揉んでいると、やがて口を開いた。