「知ってます!」


加瑠羅の問いかけに胸を張ってキッパリ答える。


「浮気相手のところで浮気相手にクマのぬいぐるみをあげて浮気相手と夜を過ごしてるはずです」


「はっはっはっはっはっ!」


私がそう語ると、どういうわけか加瑠羅は大声を上げて笑った。


そして、顔を崩しながらビールを呷る。


「何が可笑しいんですか?」


「あんたが面白いこと言うからだよ」


「面白いことなんて言ってませんよ」


「いや、その浮気相手ってのが面白いんだ。つまり、あんたは知らないわけだ。だまされてるんだね。この前、ここに金を借りに来た時、あいつが焦ってた理由がわかったよ。それを隠してたのか。葵はワルだ。ずる賢い。でも、その狡猾さが好きなんだ。そこが私は気に入った」


「何、言ってるんですか?」


「葵は悪い男だってことだよ」


そう言うと、またビールを呷った。


そして、独り言のようにこう呟いた。


「あっちにもこっちにも秘密にしてるってのは大変だね。嘘つきも疲れるってもんだ」


加瑠羅はバッグからシュガレットケースとジッポを取り出すと、ケースから一本煙草を抜いた。


それを口に咥えて、「カチンッ」とジッポの蓋を開ける。


「シュボ」と火を点けると炎が揺らめいた。


加瑠羅は慣れた手つきで煙草に火を点す。


紫煙を燻らせる。