でも、気のせいだろうか?


店長は、ほんの少し嬉しそうにしていた。


しかも、頬をほんのり赤く染めている。


ひょっとすると、花音の恋が実を結ぶのは時間の問題かもしれない。


私は気になって遠藤さんの顔をもう一度見てみたけれど、遠藤さんは向き直って仲間たちの方を見ていたから私になんて興味ないんだと諦めて前のカウンターの方を向いた。


店長が何か焼いているのか、黒煙がカウンターから上がった。


しばらく、酒とタバコの臭いを嗅ぎながら煙を見つめていた。


店内の喧騒をBGMにボーっとしていると、背中を軽くポンッと叩かれた。


後ろを向くと、花音が立っていた。


花音が耳元でこう囁く。


「後ろのテーブルの遠藤さん、カッコイイでしょ?」



私は、遠藤さんの方を一瞥する。


遠藤さんは同じテーブルにいる仲間たちと、こちらを気に留めることなく談笑していた。


瞬間的に見ても他の人々より際立って美しかった。


その横顔が眩しい。


「うちの店長と高校の同級生だったんだよ。全然違うよね。見てくれも肩書きも」


「肩書きって?」


「大手出版社に勤めるエリート会社員。W大学卒の高学歴で教養高いみたい。あれでスポーツもできて品まであるからパーフェクトだよね」


「へー。Wっていったら私立の有名大学だよね。小説家とか輩出してる。私も狙ってるんだけどね。で、スポーツもできるんだ」


「うん。らしいよ。なんかやってたみたい」


「モテモテだろうね」