「お嬢ちゃんも飲みなよ。遠慮することないよ」


勧められてガラステーブルの前の加瑠羅のそばまで近寄った。


私はガラステーブルの前に座ると、斜め前にいる加瑠羅の顔を見た。


加瑠羅は飲むようにと目で促す。


私は今夜はヤケ酒だと割り切ってテーブルの上の缶ビールに手を伸ばした。


ビールの蓋を開けて、生まれて初めて口にする。


まずい。


ビールの苦味だけが強く感じられる。


大人はどうしてこんなまずいものを飲むんだろう?


「去年すっぽかされたんだ。一昨年もだよ。だから、あんたも私と同じで来ない人をこの部屋で待ち続けてるんじゃないかって思ってね。あっ、そうだ。これを返しておいてくれるかい?」


優しい口調で話しながら、加瑠羅はバッグから白い封筒を取り出した。


それを私に渡す。


何だろうと思って封筒の中を見ると、札が12枚も入っていた。


驚いて加瑠羅の顔を見る。


「借りてた金だよ。耳を揃えて返しに来たんだ。踏み倒してやろうと思ったんだけど私の信条に反するからやめた。あいつ、私にゆすられてる気でいたんだろうか? 弱みを握られてるから借金の催促に二の足を踏んでたみたいなんだ。笑えるね」


「弱み? 弱みって何です?」


「お嬢ちゃん、あいつのこと、どこまで知ってる?」


「どこまでって……言われても……」


私が言葉に詰まると、加瑠羅は真っ赤な唇の片端だけを上げて笑った。


「じゃあ、あいつが今どこで誰とイヴを過ごしてるか知ってるかい?」