ドアの隙間から姿を現したのは、赤い髪の女だった。


葵ではないので愕然とした。


「やっぱりね。いると思ったよ。今夜は二人で酒盛りといこう」


黒のロングコートを身に纏った赤いルージュの黒崎加瑠羅がそこにはいた。


信じられない。


どうやって入ったんだろう?


「合い鍵を持ってないのにどうして?」


茫然自失になった私が聞く。


「お嬢ちゃん、スペアはないよりあった方がいいだろ?」


独特のだみ声で言葉を返す。


そして、不気味な笑みを浮かべながらこう補足説明した。


「鍵を返す前に予備を一個作っておいたんだよ。捨てた男に復讐するためにね」


本気なのか冗談なのかわからない。


加瑠羅は奇人だ。


でも、これで葵がぬいぐるみを抱えて帰ってきたと思ったのに、その期待も虚しく泡となって消えてしまった。


加瑠羅はリビングのガラステーブルの上に持参した缶ビールやおつまみを白いコンビニの袋から取り出して置いていった。


コートを脱いでフローリングの床に折りたたんで置くと、立て膝で座った。


缶ビールを一本手に取る。


「プシュッ」と缶ビールのプルタブに指をかけて引っ張って開ける。


ゴクゴクと音を立てて加瑠羅はビールを飲んだ。