「それは、そうだけど私にゾッコンみたいだったから」


「それが、まだゾッコンみたい」


花音が奥のテーブルへ移動した優の横顔に視線を向ける。


優は皿やグラスをトレイに載せていた。


一生懸命、真面目に働いている。


「好きなんだって」


花音の言葉に私の胸が震える。


しんみりした空気になる。


「やっぱり別れても薫が忘れられないって言ってたよ。忘れられる魔法があればいいのにね。この店で働くことを決めたのも薫に会えると思ったからじゃないかなあ? 学校じゃ会っても話しにくいもんね。そういえば、別れてから初めて喋ったんじゃない?」


そう言われてみれば、そうだ。


優とは久しぶりに話せた。


「うん。案外、喋れるもんだね」


「うん。そうだね」


私に同調してくれた花音は切ない表情をしている。


きっと、恋が報われない優に同情しているんだろう。


「遠藤さんと仲が冷えてるんでしょ?」


花音の言葉がズシリと重く心にのしかかる。


「今日だって寂しくて来たんだよね?」


尋問するような口調の花音が少し意地悪に思えた。


「でも、電話で話したりメールでやり取りしたりと彼氏彼女の関係は続いてるよ」