一人ぼっちで寂しいはずがない。


なぜなら、優には彼女がいるからだ。


冬休みはデートで忙しいんじゃないだろうか?


「言うなよ。格好がつかないだろ? 夏休みは別のとこで働いてて忙しかったんだ。親戚の叔父さんの店を妹と手伝ってたんだけど潰れて冬休みはどこで働こうか困ってたんだ。そこで、花音に話したらこの店を紹介されたってわけだよ」


「私に感謝しなさいよ。あんたを雇ってあげたんだから。途中でやめたら承知しないわよ」


「雇ってくれたのは店長であって花音じゃないだろ?」


「わーたーしー。店長より彼女の私の方が権力は上なんだから。わかった?」


「マジ? 結婚したら店長は尻に敷かれて、かわいそうな一生を送るだろうなあ。鬼嫁の花音に扱き使われて」


「鬼嫁とか言うなー!」


バシッと照れた花音が優の頭を叩く。


結婚の話をするものだから花音は心なしか喜んでいるように見えた。


「優君、そこのテーブルの上をこれで拭いて。それから、奥にいるバイトの子が食器片付けてるから行って一緒に片付けてあげて」


店長が優に白い布巾を差し出しながら、的確な指示を出す。 


「はい」


優が白い布巾を受け取って返事をする。


優はテーブルへ行くと布巾で拭き始めて、店長は「仕事、仕事」と独り言を言いながらカウンターの中に入っていった。


花音だけ残る。


「実はさ、夏休みに絵梨が見たって言ったでしょ? あれ彼女じゃなかったんだ。よくよく話を聞いたら妹だった。バイト先から家に帰るのに二人で歩いてたって言うんだ」


「妹とバイト先、同じだもんね。二人で歩いてて誤解されたんだ。じゃ、彼女いないんだ。できたのかと思って、ちょっと腹が立ってたんだ」


「なんで腹立つの? 彼氏いるでしょーが!」