心配して尋ねると、葵はまた黙り込んだ。


「深刻なの?」


もう一度、尋ねる。


「そういうの聞くのやめてくれる?」


葵が冷たい目で睨んだ。


私は冷や汗を掻いた。


『どうして?』という疑問を口に出さずにはいられなかったけれど恐くて飲み込む。


葵は脚を組んで私の顔を睨み据える。


「とやかく聞いてきて薫はしつこいよ」


葵が口を尖らせる。


葵はイヤミだ。


心を粉々に砕かれて返す言葉が見つからない。


身体の内側から外側へかけて凍りつく思いがした。


葵の怒りの表情から視線をそらす。


ガラステーブルの上のノートに書かれた漢文の解説に目を向ける。


「僕がいない間、マンションには来てもいいけど人は呼ばないでね。荒らされると困る」


私の背中越しに葵が冷たく言い放つ。


「うん」


怯えながら返事した。


漢文の解説が頭に入ってこない。