「あれ? 遠藤さん、揚げ物食べない主義じゃなかった?」


「太るからね。でも、いいんだ。やめたんだ」


「そうなんですか。店長みたいに太っちょになっても知らないよ」


「ははっ。安藤みたいには、ならないよ。あいつは特別」


「遠藤さん」という人は、常連客なのか花音と親しげだ。


それに、店長のこともよく知っているようだ。


花音の後姿が壁になっているので顔が見えない。


二人の気さくな会話は続く。


「店長って高校時代、どんなだったんですか?」


「食べてばかりだった。食いしん坊で……だからかな……調理師になったのは?」


それを聞いた花音が肩を震わせて笑うと、店長が私を挟んで大声で怒鳴った。


「全部聞こえてるぞ! 俺が調理師になったのは親父が経営するこの店で働きたかったからだよ! まったく、もう」


驚いて店長の方に目をやると、怒鳴りつつも、やはり店長はにこっと笑っていた。


感じの良い人だ。


「あはは。面白い」


花音はそう言うと、ぷいっと向きを横に変えて手の平の下の手首のあたりで笑い涙を擦りながらその場を離れた。


私と遠藤さんを遮っていた壁が取り除かれる。


え!?


この人、何なの!!


思わず、反射的に後ろへと体がのけぞる。