「家族と出かけるって。だから、一人」


私はそう返事をしながら、二人の前のカウンター席まで歩いていき座る。


「つれない奴だね。ま、いいや。何にする?」


花音が私に注文を聞いてきた。


「うーんとね……つくね……」


カウンターにあったメニューを取って見ながら、呟くような声で答える。


「言うと思った」


花音が明るい声を上げる。


「薫はつくね、好きだもん。ねっ、店長?」


幸せそうな笑みを浮かべながら、花音はそう言って店長の方を見る。


「そうだったね。じゃ、つくねだね」


店長は、俯いて作業しながら返事をした。


花音があまりにも明るい調子でテンションが高いので、花音の気持ちが本人にバレてしまうんじゃないかとヒヤヒヤした。


ここ最近、花音は店長に惚の字だ。


私には花音の好みがわからない。


花音が恋する、愛しの店長はお世辞でもカッコイイとは言えない。


今、目の前にいる白いガテンタオルを頭に巻いた黒Tシャツ姿の店長は、かなりぽっちゃりした体型の三枚目だ。


色白で肌がきめ細かい、お人好しそうな顔の彼は27歳には見えない中年の雰囲気が漂っている。


まん丸の顔でよく笑い、よく喋る、気のいい人だけれど私からすると恋愛対象外だ。


一方、花音の方はというとライトブラウンに染めたショートヘアがよく似合う手足が細く長いモデル体型だ。