葵は瞳を細めて口角を上げて頷いた。


これは、私を本物の彼女として認めてくれた証拠だ。


嬉しくて言葉が出てこない。


私の瞳が潤む。


「今日は、あっちに泊まるよ。帰れない。おふくろの家から直接に会社へ向かう。明日も泊まるかも」


涙ぐんでいた私に葵が水を差すようなことを口にした。


今晩は、一人か。


寂しい夜になるだろう。


あの大きなベッドで一人で寝るんだ。


「いつ来てもいいからね」


葵は機嫌を取るように言うと、くしゃっと私の頭の髪をかき回した。


歯がゆい感じがした。


拗ねた私は、葵を見送ることなく寝室に入ってベッドに身体を預けて寝たふりをした。


このまま寝てしまおう。


そう思った。


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「もしもーし、薫? 今、どこにいると思う?」


花音の能天気な声が私の耳の奥に響いた。


いつもより声が大きい。


「さあ。どこなの?」