職員室を出ると、廊下の空気がいつもよりも澄んでいるのに気がついた。
――いや、違うか、単に職員室の空気が淀んでいただけなのだろう、もちろんこのオッサンのせいで。
「あ、流君、ようやく終わりましたか」
姿を見なくてもその声が誰のものなのかすぐにわかった。
いつも通り無機質な声、表情、態度。
肩口で切りそろえた黒髪と、オヤジとそっくりの鋭い漆黒の瞳、そして、泣きたくなるくらいに、同年代では誰よりも残念な未発達の体型。
「あぁ、三条、待たせたな」
彼女は職員室の壁にもたれかかるようにちょこんと立っていた。こいつがさっきの話に出ていた新涼高校一年F組 三条 雪那だ。
「長かったですね、流君」
三条 龍虎の一人娘であり、オカルト研究会の創立者兼副部長。そして俺にこんな愉快極まりない学校生活をプレゼントしやがった張本人でもある。
「すまんな三条、ちょっと先生に相談に乗ってもらっていてな」
「いやーっ! 生徒に慕われ過ぎるってのも楽じゃないなぁ!」
……見栄ばっかり張りやがって……。