「頼むぅぅぅ日堂おおぉぉぉぉっ! あの子を……あの子を赤点の危機から救ってくれぇぇぇええええ――っ!」


「ええぃ、いい大人が鼻水流して泣き喚くんじゃねぇっ! つーか、教え子の腕にしがみつくな――って、痛でででで! 折れる、折れるぅぅうっ!?」


 う、腕がキシキシと悲鳴を上げ始めている! これはマジでやばいっ!


「――わ、わかった、わかったよっ! きちんと勉強も見てやるっ! 赤点取らねぇように対策も練ってやるっ! だから離れろやぁあああっ!」


「絶対じゃからな。もし赤点でも取った日にゃ、お前の足の爪を毟り取ってやるからの」


「子供かあんたはっ!」


 これが五秒前まで泣き喚いていたヤツの態度か。なんつー切り替えの早い四十代だ。


「まぁ、助かったわぃ……わざわざ新涼に行かせておいて、留年でもさせた日にゃあ、篤子さんに何を言われるかわからんからのぅ」


「……どうでもいいけど、そろそろ俺は行かせてもらうぞ。外に三条を待たせているんだ」


「そうか、それなら送って行く。いつも通り頼むぞ」


「………ああ、わかってるよ……」


 そうして、これから始まるであろう地獄の一週間を連想し、俺はどこまでも重たい腰を持ち上げた。