「一応、私立中学出身なんで、な」


 途中からはほとんど不登校だったが。


「そうか……それなら、お前の力を見込んでひとつ、頼みたいことがあるんじゃ……」


 ……珍しいこともあるもんだ。


 滅多に人に頭を下げるなんてことはしないオッサンが、両手を膝にやり、教え子である俺にすっと頭を下げ、


「試験であの子の力になっとって欲しいんじゃ……」


「…………………」


 正直、どう考えても面倒に巻き込まれるのはわかってる。この展開で何度ひどい目にあったことか。


 しかし、同時にこの人の娘を想う気持ちってのが、どれほど強いのかってことも、俺は知っていた。


 ……家族を想う気持ちってのは、何事にも変えられない想いなんだと、俺はこのオヤジに会って、強く強く思い知らされてしまっていたのだ。


「……わかったよ、それで俺は何をすればいいんだ」


 まったく、我ながら、お節介が過ぎる。


 ……まぁ、たまにはこういうのも悪くはないか……。


「試験中、ちぃとあの子にお前の答案見せてやってくれんか?」


「俺の二百二十文字を返せやぁぁああああ――っ! あんた一応教師だろっ!? なに生徒にカンニング推奨してんだぁぁぁあああああっ!」


 しんみりした俺が馬鹿だった。