「ちょっと、入ってっ!」

 無理やりアモルを押し込んでから、はっと気づく。

「あ、忘れてた――さっきの!」

 見るからに異質な赤い弓矢の存在に、あの双子が気づかないわけはない。

 あわてて取りに戻ろうとしたあたしの前で、ちゃっかりベッドに腰掛けたアモルが肩をすくめる。

「あ、アロウなら大丈夫大丈夫。普通人間には見えないし、触れないはずだから――なのにおかしいよなあ、なんでお前には見えて、しかも触っちゃったんだか」

 たまに波長の合うヤツがいるらしいとは聞いてたけど――とかいうアモルの呟きに半信半疑のまま、小走りでリビングへ戻るあたし。

「あれ、なんか忘れ物?」

 温めたカレーとご飯を器によそってやっていたらしい翔が、顔を上げる。

 優のほうはというと、いつものようにテレビに見入って、食卓の椅子でデーンと待っていた。

 どうやら本当に二人とも、ソファの上にある赤い弓矢は見えていないらしい。

 まったく普通の態度に、あたしはほっと胸を撫で下ろした。

「う、ううん。えっと、そう、飲み物――マモルくんに飲み物って思ってさ」

 できるだけさりげなく、自然に見えるように戸棚からお盆を取り出して、冷蔵庫のジュースを注いだコップを二つ載せた。

 そーっと近寄って二人に見えないよう手に取った弓矢を脇の下にはさみ、一緒に持っていくのも忘れない。

 といっても、弓矢のほうは重さなんて全く感じないものなのだけれど――。

「僕らのことなら心配せずに、ごゆっくり、姉ちゃん」

 通り過ぎざまに、そっと言ってよこした翔の言葉に危うくつまずきそうになる。

 耳ざとく聞きつけた優が「えっ、何何? やっぱそういう関係かよっ」と騒ぎ立てる声を背に、あたしはあわてて自室へ戻った。