「お兄ちゃんったら絵夢のことバカにしてるでしょ? 改札通って切符を買うんでしょ!」

それはそれは真面目な顔でおっしゃいました。少し溜め息をついて

「いいか。この前一緒に定期券を買っただろう? だからお前は切符を買わなくていい。あと順序が逆だ。切符を買ってから改札を通れ。分かったな?」

本当にこんなやつが中学生になるってのか?幼稚園児が小学校をすっ飛ばして入学したんじゃないのか?



姫咲駅は普通電車しか止まらないような小さな駅だ。あるのは古ぼけた看板と、その光景に不釣り合いな自動改札機、そしてアナログの時計。時刻は7時42分。電車が来るのは45分だからあともう少しだ。絵夢は走り疲れたのか、ベンチに腰かけている。



すると
誰かが改札を通ってきた。見慣れない女子生徒だが、同じ高校の制服だ。
あんなやついたっけ?

いや、
僕の瞳はその瞬間、彼女を捕えて離さなかった。
長く黒い髪の毛はサラサラと春風に揺れ、絹のように白く滑らかな肌。瞳は思わず吸い込まれそう。清純な顔立ちで、凛々しい。僕は彼女の横顔を遠くから離れて見ているだけなのに、僕の心はこんなにも惹かれてしまう。