入って来た若い女教師、「大泉響子」がオペラ調の変な歌声で自己紹介をし始めた。まあ音楽教師なんだろう。

「担当教科は~数学~」

なんでやねん。数学かよ。ここは誰かツッコんでやれよ。
この先生もウケ狙いでやってるのか?だったらサッサと止めればいいのに。誰も笑えないぞ?

「それでは~皆さ~ん。出席番号~1番から~自己紹介してね~~」

してね。がファルセット(要するに裏声)になった。
こんなハズい空気の中で自己紹介かよ。クラス全員キョトン顔だぞ。
僕は立ち上がって、紋切り型のあいさつをする。

「相沢悠です。よろしくお願いします。」

パチパチと短い拍手が鳴り、さっさと席に座る。
続いて足立、泉、井上、江原、岡村と続いていく。
バッチリさくらちゃんの自己紹介は聞いたが、それ以外は特に聞いていなかった。知ってる奴の自己紹介なんか聞いても面白く無い。窓辺から外を眺めると、桜の花びらが舞い落ちている。この辺りは車も殆んどない。だから空気も清んでいて、風も吹かない。自然がそのまま保たれている。
ひらりと……ふわりと…
コンクリートの道が桃色に染まる。
桜は僕の気持ちを慰めも逆撫でもしない。ただ風にのり散るだけだ。