《五月原~五月原です。》

いつもの駅に到着する。普段なら通勤通学客で一杯になるのだが、今日はいつもより大分早いお陰か、椅子に座れた。

「絵夢、降りるぞ。迷子になるなよ」
「分かってるも~ん」

絵夢は僕の背中にピッタリとくっついて、歩いていった。

ふとあの少女のことが気にかかり、辺りを見回したがあの秘宝のような姿は、どこにも見受けられなかった。

「ここが校門だ。お前は中等部だからこの門に入ったら右に曲がる。それでそのまま真っすぐ行けば中等部の入り口だ。分かったな?」

僕は今日(ここ3時間の間に)何度「分かったな?」と言ったんだろうね。ようやっと登校終了。妹と一緒に学校に行くのがどれだけ神経使うのか身にしみて分かった。

妹は悲しすぎるほど天然ボケ入ってるし、途中知り合いに何人か会って
「この子って妹? かわいい~!」とか
「へえ~妹なんかいたんだ~!」とか
「い…妹、うらやましぃ~なぁ~おい!」とか
「うひゃあ~思わず食べたくなっちゃう!」とか言うのに何人会った?

とりあえず一番下のセリフを言った奴は殴っておいた。

絵夢は僕の言った通りに左へ……

「おい!!」