その子は……例えると何になるんだろう。
全てを覆いつくし、優しさに溢れた純白の天女のようでありながら、雄々しく猛き力と情熱に満ちた戦乙女のようだ。
僕が彼女の虜になるのに、1分も時間はかからないだろう。彼女の容姿は、あらゆる色彩をもってしても模倣することはできまい。それほどまでに抜きんでた芸術作品ともいえる。どうやって僕は彼女から離れられようか?僕の空っぽな心が確かに満たされていく。僕にとって、それほどの価値のある人だった。
出来たのは息を飲むことぐらい。駅のアナウンスや電車の警笛すら耳に入らなかった。

「お兄ちゃん?」
「っ! あぁー何だ? 絵夢?」
「電車来てるよ?」
「ぉ! ああ、乗るぞ!」

電車に乗り込む。
その瞬間車掌の笛が鳴り、ドアが閉まった。開かずの扉を開くような軋む音を聞きながら電車は出発する。


いったい…さっきの少女は誰だったんだろう?
僕の知らない人だった。同じ学年じゃなくて、一個年上の先輩なのかな……。
あの顔が頭から離れられない。ただ呆然と車窓から普段通りの景色を見ていた。僕は既に日常的な一日から脱出しはじめていた。