廊下の向こうから
歩いて来た女子一人。



ビリビリに破かれたノートを
何冊か腕に抱え、
長い前髪で顔を
隠すようにしている。



「あ、あのっ」


いきなり私の前に立ち止まった。


「き、教科書……を
 返してください」



知らないよ、と答えた。


名前も知らない同級生の教科書の行方なんか、私が知るはずもない。



「ウソつかないで下さいっ…… 果歩ちゃん達は
 そう言ってるんです。
 机の上にあった教科書が、
 と、突然消えたって!」



あなたが
“化け物”と称される
私のことを知っていても、
私はあなたを知らない。