1月1日の朝、私は家の前に立っていた。何故かと言うと西園寺くんに初詣に誘われたから。
行き先はうちの近所の神社。
小さな神社なので地元の人くらいしか来ないので、なかなかの穴場。
だから私から場所を提案したら、西園寺くんがそこがいいって言ってくれて!
昨日の夜から、私は楽しみでそわそわしていた。そしたらお母さんが、
「遥!お着物着ましょ!」
って張り切っちゃって……。
早朝からみっちり時間をかけて着せられて、すでにぐったり……。
着物なんて、年に一回くらいしか着ない。
ぞうりで歩くのも自信ないけど、近所なら大丈夫かな?
そんなこんなでドキドキ。
「寺島!」
聞き間違える事のない声に、私は振り向く。
西園寺くんだ。いつもながら、私服かっこいいなぁ。
「寺島さん!」
「お、着物じゃんか!」
夏乃子(かのこ)ちゃんに嘉川(かがわ)くんも一緒に来たんだ!
夏乃子ちゃん、お着物素敵!
「明けましておめでと〜!」
私と夏乃子ちゃんで手を握り合って喜んでいると、不機嫌そうな顔の西園寺くんが割り込んでくる。
「おい、寺島。お前は誰の彼女なんだよ」
「えっ!?」
急に言われた言葉に顔が熱くなる。
『彼女』
うん、私は西園寺くんの彼女……。
「俺より先に夏乃子に言うとかしんじらんねー」
「あっ、ごめん。西園寺くん、明けましておめでとう」
そう言うと、西園寺くんはニッと笑ってみせる。ご機嫌直ったみたい。
「寺島ちゃん、明けましておめでと!」
「うん、嘉川くん明けましておめでとう」
なんて言ってる間に西園寺くんは私の手を握って、さっさと行こうとしてしまう。
「ちょ、ちょっと待って」
「いーから行くぞ」
私がぞうりでパタパタ小走りになっていると、西園寺くんはそれに気付いたのか歩くスピードをゆるめてくれた。
「玲のやつ、ヤキモチだな」
「ホント玲ちゃんったらー」
後ろでくすくす笑い合う嘉川くんと夏乃子ちゃん。
なんだかお似合いの二人だな。
それに心なしか、夏乃子ちゃんの顔がとても嬉しそうに見える。
そんな事を思いながら歩いていると、すぐに神社に着いた。
「はー、こんなとこにホントに神社あったんだ」
「夏乃子も初めて知ったー」
「人も少ないし、寺島の言うとおり穴場だな」
「うん。そうなんだよね」
石畳があって、木々に囲まれた鳥居があって。きれいな空気が、隠れ家っぽい雰囲気の神社。
出店などはないけど、おみくじがあって、絵馬がかけられていて。
小さな頃から、何度も来た神社。
そこに、西園寺くんと詣でる日が来るなんて思いもしなかった。
入ってすぐのところにある手水舎(ちょうずや)でみんなで手を清めて、本殿に向かう。
「せーので入れようぜ」
「りょーかい!」
みんなで合わせてお賽銭を入れて鈴を鳴らすと、それぞれ手を合わせてお願い事をする。
フッと目を開けると、西園寺くんと目があった。どうやらじっと見られていたみたい。
「何、お願いしたんだ?」
「……内緒」
「つまんねぇのー」
「だって、言わないほうが叶うかなって」
「ふーん?じゃあ許してやるか」
どんなときも、俺様な西園寺くん。彼こそ、何をお願いしたんだろう。
自分で内緒にしておきながら、気になるなぁ……。
お願い事の後は、やっぱりおみくじだよね!
おみくじ好きの私はワクワクしてくる。
「寺島、なんか楽しそうだな」
「ふふ、おみくじ好きなんだー!」
楽しみで仕方ない私に、西園寺くんがいたずらっぽく笑ってみせる。
う、これは……何かたくらんでる時の顔だ。
「じゃあ、結果で負けた方が勝った方の言う事聞くことにするか」
「それ乗ったー!」
「夏乃子も!」
「ちょ、お前らには言ってねー!」
「い、いいじゃない。みんなですれば……」
私の言葉に西園寺くんから非難の目線が飛んでくる。うう、だって二人だと何言われるか分かんないんだもん……。
結局、四人でおみくじを引く。
「せーの!」
全員で一斉に結果を確認する。
「大吉!」
「吉!」
「中吉!」
「末吉……」
なんと、私が末吉!
そして大吉は……、
「やっぱもってんな、俺!」
見事に(?)西園寺くん。
ええ……、これって……。
「寺島、覚悟しとけよ?」
う、嘘でしょ……?
焦る私を満足そうに眺めて、西園寺くんは『何にしよっかなー』と呟いている。
参ったな……と思っていると、いつのまにか隣に来た嘉川くんが私に笑いかけた。
「寺島ちゃん、ありがとな」
「えっ?ありがとう?どうして?」
「玲を、過去から助けてくれて、だよ」
「過去……」
それは亜衣(あい)さんの事だろう。西園寺くんを何度も裏切った、彼の初恋の人。
亜衣さんは、今は幸せなんだろうか。
「寺島さんと付き合ってからの玲ちゃん、ホント幸せそうだよ?」
「そ、そうなんだ……?」
後ろからぴょこっと顔を出した夏乃子ちゃんもそういって笑う。
そうなのかな?
西園寺くんは、私といれてよかったと思ってくれてるのかな?
私は……西園寺くんといれて良かったって思ってる。
だから、彼もそう思ってくれてるなら、本当に嬉しい。
「よし!決めた!」
西園寺くんが、最高に楽しそうな顔をした。
ヤバい!絶対、ぜーったい、ヤバい!
私の第六感とやらが、その先の言葉を危険だと感知している。
危険、
危険、
キケン!
でも、そんな危険なあなたが……いつだって最高に―――大好き。
おわり