遥か上空では、一部始終を見ていた、自らは輝きを放出しない新月が静かに聳えていた――。
「今行くわ――」
小走りにアリスの声を追った――。
「涙」の翌日から、レコーディングは再開された――あのブースには、すぐに新しい機材が搬入、設置され、亀裂の入った防音ガラスも新しい物に交換された――まるで、何事もなかったかの様に――――。
心配していた万希子さんも、自らの努力とメンバーの励ましで、立ち直った――。
「今の、どうだったでしょう――」
レコーディングの度に、スピーカーから流れるプロデューサーの媚びた声。
「わかりません――」
冷たく突き返した。
そのやり取りを、メンバーやディレクターが笑っている――「あの日」以来、何やら私の地位は、プロデューサーよりも格上の存在となっていた――――望んでもいないのに――。
素晴らしい朝――太陽は柔らかく艶やかに輝き、飛び交う鳥も祝福の声を上げて空を舞う――蕾を開いた色鮮やかな花達も咲き乱れ、喜びを表現したこの日、甘い蜜を湛えた、ヴィーラヴによる愛の贈り物が、閉塞した世界に舞い降りた――――。