「それじゃあ礼子さん、マイマイは辞めずに済むんですね――」

 詩織が最終確認をする。


 社長は何も言わない――詩織を見つめ、ただ一回、頷く――。



「わぁっ――」

 歓声が上がる。モカとモコはその場でジャンプを繰り返しながら残りのメンバーを巻き込んでゆく――詩織は万希子さんに近づいて互いに手を握り、何度も嬉しそうに頷き合う。



「さあ、今日はここまでにしましょう。明日から気を取り直してレコーディングを再開するわよ――」

 そう言って皆を鼓舞すると、しなやかに身を反転させ社長はエレベータホールへ歩き出す。



「はぁい――」

 皆が続く――私は全員を見送った後、小さく安堵のため息をつき、リラックススペースを後にした――。




「良かったわね――」


 誰かが言った。

 振り返る――当然、誰もいない。すっかり夜を迎え、久しぶりに澄んだ空には無数の星々が輝きを放ち始めている――。


 でも――確かに声が聞こえた。



「マイマイ――」

 遠くでアリスの声。

 星の灯りと高層ビル群が造り出す人工的な輝きが融合した光が、誰もいない空間に注いでいる――。