「どうしてそんなに考え込んだ表情をしているの――」
有名女子校からエスカレーター式に何となく進学した大学の構内で、私は彼に唐突に声をかけられた。
また、いつもの下らないナンパ目的――。
「別に意識してこんな顔、している訳じゃありません――」
いつも通り冷たくあしらったつもりなのに彼はどうして、と肩を竦め私を見つめた――。
「じゃあ、君の無意識の中に人を避けたり、自分のエリアに土足で踏み込んで欲しくないっていう思いがあるのかな――」
「下らない――」
彼に冷ややかな視線を送り、私はその場を立ち去ろうとした。
「気に触ったなら、ごめん――」
人を食った様な言い方。「無意識」だなんて――きっといつも浮ついた言葉を並べ、手当たり次第に女性に声をかけているに違いない。
足を止め、呆れた表情と嫌味と怒り交じりの声で彼に言った。
「随分と哲学的な解釈なんですね――」
振り返り、言い放った瞬間、シャッターが切られた。
してやったり――そんな顔で広げた両手の手のひらを空にかざし、素晴らしい写真が撮れた事に彼は充足感を得ている様に見えた――。