シフォンを消滅させた事実――それに託けて、私が遠い過去に体感した傷を修復し、魂の復讐を成し遂げた達成感で心が踊り、快楽を覚え、スロットルを制御する右足も、理性を失いかけている――。
果たして、橋本 明子のみに起こった特別な現象だったのか――。
そうではない――――シフォンなる橋本 明子の内部に創り出された偽人は、私達の中にも存在する――――。
「私」と認識している自我は本当に、私自身の魂なのか――――喰うか喰われるか――魂では絶えず自我と偽人との闘いが行われている――。
いつの日か、ふとした些細なきっかけで、自我を喰い、魂を乗っ取ろうと偽人は舌舐めずりし、その時を待っている――――欲望、嫉妬、抑圧、希望、愛さえも偽人にとっては格好の養分となる――。
故に、先の私の満足感も、私に潜むか弱い偽人を成長させる栄養素となっている――。
全てを諦めて、偽人に乗っ取られた瞬間に、人間は生きた屍となる――。
橋本 明子と彼は、幸せに生きてゆくだろう――――長くは続かないかもしれないけれど――。
等しく、「死」が訪れるのだから――――。