「何がですか――」


「忘れているじゃない――あの事を――――ふふふっ、それとも隠し通せるとでも思っているのかしら。どうだった――――葵と流花はちゃんと舞さんを愛してくれたかしら――」


「礼子さんっ」


 嘲笑うかの様な表情、いたぶり、それを楽しむ口調、出で立ち、全てが許せなくなり、私の感情は右腕を動かし、礼子さんの頬を殴る様に張った――。


 肉と筋が断絶された様な鈍い音が一瞬、響く――――しかし次の瞬間、礼子さんが受けたであろう倍の衝撃と痛覚が私の頬に伝わる――。


 打撃を受けきれず、ずれる立ち位置。


 張って、張り返される――――礼子さんに、私を騙していた事を謝罪し、この場の主導権を譲る気は更々ないのかもしれない。



「きちんと答えなさい――愛してくれたの、くれなかったの――」


「それは――――」



 礼子さんの頬から、血が滲み出ている――「殴り慣れない」私の爪が切り裂いた傷――。


「どうなの、舞さん――」



「言いたくありません」



「そう――」


 人差し指を傷口に這わせ、血を掬って口に含み、礼子さんは怪しく私を見つめた――。