窓を開けた――――エンジン音とタイヤが路面を捕らえ、前へと蹴り飛ばすロードノイズだけが、この世界の唯一の音源だった。
桜を慈しむ鳥達の歌声も、花粉を享受する虫達の囁き声も聞こえてこないのが、寂しくもある――。
きつめの左カーブにさしかかった――パドルシフトでギアを7速から6、5、4、3、2速へとリズミカルにシフトダウンを行う――――。
一切のショックもなく、エンジンブレーキがかかる――――縁石に触れようかという所までイン側にステアリングを切り込み、カーブを抜ける絶妙のタイミングでスロットルを全開放する。
テールがスライドし、スピンという行為で抵抗する車を宥める様に、カウンターステアで危機を回避し、3、4、5、6、7速とシフトアップする――――官能的なエンジン音、路面状況を的確に私へと伝えるサスペンション――尋常でない速度――――。
「素晴らしい――」
もの凄い風圧で車内に入り込む風さえも、私の高ぶる心を冷却するには程足りない。
「雪――――」
フロントウインドウにそれが当たっては、後方へ飛ばされてゆく――。
速度を落とす――。