社長室を出る時、デスクに腰かけ、親しげに話している礼子さんに一礼する。

 軽く手を振る礼子さん――西日が礼子さんの姿を照らす。礼子さんの顔は更に美しくも、しかし何処かに陰りの存在を匂わす、怪しげな表情にも見えた――。




 久しぶりに自分の車のエンジンに火を入れた。

 ミニヴァンの高い視界に慣れて、私の車の運転席から見える風景が狭く感じたが、高速道路を走る頃には、この視界と着座感を脳と体が認識し、私に戻ってゆく――。

 高速道路を降り、ナビに導かれて閑静な住宅地を抜ける――進んでゆくに従い、徐々に住宅の数は減り、やがて道の両側は鬱蒼とした雑木林に囲まれる。


 空は灰色――雲はどす黒く、それぞれが不気味な形で浮遊して僅かな雲の切れ間から、鋭い太陽の光が射し込んでは、すぐに切れ間が閉じる妙な空模様――。

「嫌な空――」

 朝から続く軽い頭痛が加速されそうで、前方だけを見据えた。


 やがて雑木林は、きちんと間隔を計り、人工的に植林された木々の列へと変わる――整然と配置、管理されて綺麗だが、ありのままの勢いと生命力が感じられない光景に、不安な気持ちが芽生える――。