アリスの件は、私が報告するまでもなく、社長は事実を把握していた。


 恐らく、アリスがメールでやり取りしていた相手は社長だったのだろう――アリスの今の母親は社長なのだから、成り行きとしては当然だ――。


 母親――社長にとっては造作ない作業なのだろう――アリスの親族を巧みな手を使い納得させ、味方に引き入れ、仕上げに両親から親権を喪失させて、自らが母親となる。


 巧みな手を――

 どんな手段を用いたのかは、今の私なら想像はつくけれど――。



 私は社長に詫びた――結果的に「カネ」で解決せざるを得なかった事を。



「アリスが迷惑をかけてごめんなさい。でも、これでいいのよ。事後処理は私がしておくから心配しないで――それと、決して舞さんは間違っていないわ――ありがとう――」



 心を込めて言い、私を抱きしめて労ってくれた。





 密かにカネは二人に渡った――喜んで受け取った。と、アリスの言う「専門の人間」から、後になってこっそり聞いた。



 黒づくめやサングラスでもなく、「この人が」と思う様な、物腰が低く紳士的で、穏やかな語り口の笑顔が爽やかな人間から。