うーん、と大袈裟に唸って、腕を大きく伸ばす。
それをキッカケに、やっと俺の1日が動き始めたようだった。
今日は洗濯日和中の洗濯日和。
窓からふんだんに流れ込む日差しが、俺にそれを告げている。
彼女と出会ったのは、これと全く真逆の日だった。
…土砂降りの、雨の日。
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「…大丈夫ですか」
恐る恐るかけた声に、彼女は薄目を開けたかと思うとまたその瞳を閉じた。
新鮮な月明かりで、彼女の濡れきった長い睫毛は頬に影を落とす。
とあるバス停の古びたベンチ。
声をかけたのは、別に意図的なナンパだとかそういうのでは決してなく。
バス停の真正面にある喫茶店で、突然の天気の崩れに雨宿りをしていた俺。
コーヒーの湯気で曇ったガラス窓の向こうに、朧気な人影が見えて。
それがベンチに横たわった女であると気づいて、あまりにひどい天気に数時間コーヒー一杯で居座った店内を後にした自分の視界の中に、まだ同じ体勢で死んだように横たわる女がいるのが写りこんで。
…そこで初めて、大丈夫かと声をかけたまでの話。
しかし目の前の彼女からは、一度目を開いた以外に何のリアクションも感じられなかった。
「…バス、次ので終バスですけど」
やはり反応はナシ。声なんかかけるんじゃなかったと、少し後悔した。
しばしの沈黙。
耳に、バスがこちらへ向かってくる微かなエンジン音が届く。なんだか後には引けなくなって、もう一度だけ問いかけた。
「…乗らないんですか」
「無いの。」
驚いた。俺の言葉とほぼ同時に、彼女の口が動いたから。
「は──?」
「バス代が、無いの」
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