晴天の空の下。
長く続く道を歩く。
右手には渡されたシルバーのリング。握った掌が、少し汗ばんだ。
彼女は知らない。
俺と幸は、いとこなんかじゃなかった。
…恋人だったんだ。
とても平凡で幸せな、恋人だった。
彼女は知らない。
俺に手渡した幸の形見。
片割れは俺が持っていて。
それは幸がくれたペアリング。
大っぴらにそんなのをひけらかすのは恥ずかしいからと、俺はめったにつけることなく机に飾っていたけれど。
なぁ、幸。一体何のつもり。
ペアリングを一人で2つ持ってるなんて、寂しい奴だなって笑われちまうよ。
これを俺に押し付けて、忘れないでとでも言いたかったの。
何の嫌がらせだよ。
…馬鹿じゃねぇのか?
そんなの無くたって、忘れられる訳がない。
なぁ、あんまり言わなかったけど。
俺、本気でお前が好きだよ。
好きだよ。好きだったよ。
好きだったよ。
中途半端に痕だけ残して。
頭上に広がる青い空。
このずっと続く空も、いつか終わってしまうのか。
『たいちゃん』
なぁ、幸。
俺も暗い闇の中に引きずり込んでくれればいい。
お前がいなくても世界は変わらず回ってるけど、お前がいなくちゃ俺は世界に置いて行かれてしまうよ。
紅く塗り潰して。
撃ち抜いて。
いっそバラバラに、切り刻んで。
…お願いだから。
【end.】
(2007.5.27)