海辺の堤防を歩く。
夕日に染まってゆく古びたそれは、昔からなんの変わりもないように見えた。
その上をゆっくり進むくるぶしふたつ。
まだ新しいサンダル。
…それだけが、昔と少し違った。
勤め先で出会った有弥とは二年間の付き合い。
…あたしは、来週結婚する。
潮風になびく髪を抑えつけ、寄せては返す波と沈んでいく太陽に向き合う。
赤く燃える夕日の色は、なんだかとても…目にしみた。
ザザン、ザザン。
彼の横顔は、下手くそな鉛筆書きの絵のようにしか思い出せない。
それなのに、彼の体温と…彼の声だけは、はっきりと頭にこびりついてる。
矛盾している。
思い出すのは好きじゃないけど、消えてしまうのは嫌だった。
『好きだな、この音』
ザザン、ザザン。
元気にしていますか。
私は今でも、この音を聞くとそんな気持ちを思い出して、
…あなたを思い出して、
ほんのすこし、切なくなります。
【end.】(2007.10.27)