サンダルに片方の足をつっこんだところで、ちょうど台所から母の甲高い声がした。


若干苦笑いを浮かべながら、もう片方に足を通す。


「千尋!夕飯手伝うって言ったでしょ!」

「わ〜かってるって!ちょっとだけお散歩、ね?」


窓から見えた夕日が、あまりにも綺麗だったのだ。

夕焼け色に染まる海を見たい。その誘惑には勝てなかった。


家の中には、すでにお醤油のこうばしい匂いがたちこめている。


今日の指導メニューは、肉じゃがと炊き込みご飯、あとあげのお味噌汁の予定だった。

日どりが近づくにしたがって、お母さんの指導はスパルタになってきている気がする。


頑張ってはいるんだけどな。なかなか、我が家の味を習得するのは難しい。


「ちょっと!しかもなんなのそのカッコはしたない!!」

「別にフツーのワンピースですけど」

「そんな薄っぺらいの一枚で外に出ていかないの!もーまったくアンタって子は……」

「いってきまぁーすっ!!」


元気よく玄関を出ていくあたしの背中に向かって、ハア、と大袈裟なため息がひとつ。







「…全く、来週嫁にいくっていう女だとは思えないわ」