来る時も、去る時も。

とにかくはじめからおわりまで、気まぐれで、勝手で…我が儘だった。




あの日。

大学からやっと帰宅した俺の視界の中に、もう彼女はいなかった。

何もなかったように、まるで夢であったかのように、彼女は忽然と姿を消していた。

そのうちまたひょっこり現れるような気がしていたけれど、今日…就職もとうに決まって俺がこの一人暮らしのマンションを離れることになった今日まで、結局彼女が姿を見せることはなかった。








…はじめからおわりまで、アイツは。













今日は洗濯日和中の洗濯日和だ。

しかしもうベッドのシーツや洋服は段ボールに詰めていたから、使い道の無い黄色い日射しがとてももったいない。

すっかりまとまった部屋は、もう俺の名残など一つも残しておらず…なんだかあっけないなと少しだけ寂しく思った。


引っ越しのトラックがくる前に、昼食にと一つ、林檎を買った。ポン、と、手の中で一度、それを弾ませる。



『すりおろしてくれたら』



…ふ、と小さな笑みが漏れる。



昨日のネコもそうだった。

頼まれた缶詰めを皿に出してやったのに、フイと横を向いて食べようとしない。スプーンで小さくほぐしてやって、やっと初めて口をつけた。


大きな口を開けて、林檎をかじる。

今日は清々しいほどの快晴。…でも明日は、土砂降りの雨だったりするかもしれない。俺と彼女が、出会った日のように。




『毒林檎かもしれないじゃない』




何度も噛み締めた口の中。


…酷く甘い、毒の味がした。






【end.】
(2007.8.17)