その時だった。

「弱いくせに、無理して飲むから」

外から聞こえたのは尚の声。どうやら二人はバルコニーにいるようだった。
別に聞き耳を立てるつもりじゃなかったけれど、なんとなく二人の会話を邪魔する気にもなれずにそのまま寝た振りを続ける。

「麦茶」

「悪い、サンキュ」

千秋の声に、曇りはない。
それに無償にホッとしている自分がいた。

「真知、よく寝てるな」

いきなり自分の名前を呼ばれて、心臓がドキッと大きく高鳴った。
千秋がくすくす笑うのが聞こえる。

「あれだけ飲めばね」

―……あれ、あたしどれだけ飲んだんだ?覚えてない。

尚の呆れ声に冷や汗をかきつつ、内心首を傾げた。